去る 7 月 10 日(日)の午後、尭慶たかよし君(小1)と 龍明たつあき君(小 6)兄弟とお父さん・お母さんの山本様のご一家が当館へ来館してくださいました。
ちょうど事務室入口奥のコピー機の前で、複写する資料を眼鏡をはずして読んでいた学芸員(老眼のため…)。入口でお母さんにお声掛けいただいたのですが気づけず、他の学芸員が対応していました。
「あそこのエプロンをしている方へ、先日ナナフシのことで尋ねまして…」と耳に届いたので眼鏡をかけた学芸員。見覚えのあるお顔と覚えのあるお話でした。

先日、ちょうどこのエプロン学芸員が休日当番で出勤していた日、お母さんと尭慶君・龍明君がご来館されました。その際、当館周辺(特に北側の南養寺裏手の森と当館が接している辺り)に、〝ナナフシ〟はいないものかとのご質問を受けたことがあったのです。

このエプロン学芸員、はるか昔の幼き小学生の頃、夏休みの自由課題といえば、毎年蝶の標本をつくっていました。夏休みは毎日網を持って田舎の野山を駆けずり回っていた経験があります。その記憶の中で捕まえることのできなかった、いや、見つけることすらできなかった昆虫が3つありました。そのひとつが国蝶である〝オオムラサキ〟、ふたつめが法隆寺の厨子に羽根が利用されている〝タマムシ〟、そして木の枝に見事に擬態する〝ナナフシ〟という面々であります。

当館に勤務するようになってから、念願のタマムシには館周辺でお会いすることが叶いました。ところが、ナナフシはまだ見つけたことがない。当館で展示している標本には、「くにたち郷土文化館でみられる虫たち」としてナナフシも入っていますから、周辺に生存しているのでしょう。

しかし、このナナフシ、なかなか見つけるのが難しいのです。とにかく枝にソックリ。動かないと枝と見分けがつきません。大人になってからじっくり探していないので、余計に見つからないのでしょうが、まだお会いできておりませんでした。

そんな実のない話をお母さんに伝えてはみたのですが、その後お母さんと尭慶君・龍明君で当館周辺を探索してみるとのことでした。「がんばってね。見つけたらオジサンにも教えてね。」なんてことを尭慶君と龍明君にお願いしていたのです。

そして先日。なんと本当にナナフシを連れて来館してくれたのです。お話をうかがったところでは、やはり先日のご来館の際には館周辺で見つけることはできなかったそうです。その後、大学通りの桜並木において発見!捕獲に成功したとのことでした(その後他の場所でも見つけたとのこと)。尭慶君と龍明君、兄弟それぞれで見つけたというので、「ふたりともよく見つけたねぇ。オジサンなんか小さい時に結構探したんだけど見つけられなかったんだよぉ。」と感心しきりでしたが、ふたりに聞いてみると、そんなに苦労せずに見つけられた様子。なんと素晴らしい!ふたりの観察力と集中力の高さにオジサン脱帽でした。

当日ご持参いただいたナナフシは、ゴールデンウィーク中に捕獲したそうです。それが順調に成長、脱皮を繰り返して大きく育っているとのこと。昆虫は捕まえてから生育させていくのは難しいところがありますが、見事に育て続けられているようです。お母さんからは、ナナフシがちょうど生んでいた卵を見せてもらうこともできました。

尭慶君と龍明君がナナフシへとそそいでいる思いもさることながら、お父さんとお母さんが兄弟ふたりに対して協力されている姿に、エプロン学芸員は感動したのです。お父さんからはナナフシの名称のことや、大学通りの桜並木の中でもナナフシがいる樹とまったくいない樹があること、食用となる樹や葉のことなどをお聞かせいただきました。「にわか仕込みですけど」とご謙遜されていましたが、このような情報収集と調査があって、ふたりのナナフシ捕獲につながったのだと感じました。お母さんも、先日のご来館時もそうですが、ふたりのナナフシ探しをサポートされていることがよく分かります。卵を見せていただいた時も、何事もなく手に直に載せていらっしゃいました。昆虫を苦手とする大人もいる中で、まったくそんな素振りすら感じさせず、ナナフシが成長しているのをお子さんらと共に楽しまれているようでした。

エプロン学芸員は、両親の仕事もあって、いっしょに虫捕りをしたことがほとんどありませんでした。地元の市立博物館が主催する昆虫相を調べる会というものに参加して野山に入っていました。それはそれで仲間や専門の先生と一緒で楽しかったのですが、尭慶君・龍明君兄弟とお父さん・お母さんが、家族みんなでナナフシを追いかけ、育てている姿を拝見して、うらやましく、そしてとても素敵なことだと感じたのです。

何のお役にも立たない話しかしていなかったにもかかわらず、わざわざナナフシをご持参いただき、本当にありがとうございました。やっと念願であった〝ナナフシ〟にもお会いすることが叶ったばかりか、ご家族の素敵なつながりにも触れさせていただきました。
お礼を申し上げると共に、「ナナフシご報告」を紹介させていただきました。

(2022.7.12:中村記)