郷土文化館の武蔵庭園は、晴天に恵まれれば、近隣を散策される方の格好の休憩場所となります。その片隅に、鋳物製の椅子が置かれているのをご存知でしょうか。重さはそれほどではありませんから、自由に移動させて、仲間うちでお弁当を広げることもできます。
この椅子を見ていると、東山魁夷画伯の『コンコルド広場の椅子』という詩画集を思い起こします。パリのコンコルド広場に置かれた椅子たちを題材にした、余白を生かした淡彩のリリカルな画集で、或るページにはこんな詩文が添えられています。
「この広場には/なんと多くの人が集まり/通り過ぎて行ったことだろう/しかし/私に声をかけてくれた人はほとんどいない……私はよく人に語りかけてはいるのだが」
椅子に語らうことができるならば、我が郷土文化館の椅子も、来館される一人一人と挨拶を交わしているのかもしれないと思ったりします。