丸山薫に『白い自由画』という詩があります。

私は子供達に自由画を描かせる
子供達はてんでに絵の具を溶くが
塗る色がなくて 途方に暮れる

ただ まっ白い山の幾重なりと
ただ まっ白い野の起伏と
うっすらした墨色の陰翳の所々に
突刺したような疎林の枝先だけだ

私はその一枚の空を
淡いコバルト色に彩ってやる
そして 誤って まだ濡れている枝間に
ぽとり! と黄色の一と雫を滲ませる

私はすぐに後悔するが
子供達は却ってよろこぶのだ 
「ああ まんさくの花が咲いた」と
子供達はよろこぶのだ

この詩は、作者が疎開先の山形で教員をしていたころに作られました。雪深い北国の“仙境”と言われる地で、子どもたちの春を待つ純朴なこころが沁みてくるようです。まんさくの花は、春に先駆けて「まずさく花」が「まんさく」になったとも。今年は例年になく寒い冬ですが、凛とした空気を肌に感じながらの散策に、遠い雪国の空と、必ず訪れる光の春を待ち望む人びとを想わずにはいられません。