はじめに
国立市広報担当から当館に移管された写真資料からピックアップしてのご紹介。今回は、国立駅に備えつけられた雨傘の写真を紹介します。
撮影年代はひとまず「1959(昭和34)年」と推定しています。1959年といえば、上皇・上皇后両陛下が4月10日に御成婚された年。結婚パレードがテレビで生中継されましたが、この日に間に合わせるべく4月1日に8社のテレビ局が開局し、テレビ受信契約が200万台を突破しています。この生中継によってテレビの普及が促進されたとも言われています[1]世相風俗観察会編『現代風俗史年表 昭和20年(1945)~平成12年(2000)』(河出書房新書、2001年)118頁、西井一夫編『昭和史全記録』(毎日新聞社、1989年)628頁。。そんな年に撮影されたであろう1枚です[2]この紹介文掲載の写真や資料等で、提供先の記載がないものは当館所蔵の資料です。。
この写真の存在は以前から知ってはいたものの、撮影された内容がはっきりせず、撮影年代を探る手がかりもなしという状況でした。詳しい内容には触れず、「こんな写真がありますよ~」とただただ紹介する手もあるのでしょうが、それでは学芸員としてあまりにも無責任かと。不真面目な日々を消費している私としては珍しく、そんな真面目な思いもあって、今まで紹介できずにいた1枚です。それでは今回スッキリと判明したので紹介に及んだかというと、さにあらず。結局よく分からない、というのが正直なところではあります。ただ、調査内容を提示して紹介することで、もしや何かの情報をご提供いただけるかも、という邪まな思惑と淡い期待なんぞをナイマゼにして、今回の紹介とあいなりました次第です。話が色々と飛び回ってどこに着地するのか書いている本人すら分からないのですが、お付き合いいただけましたらコレ幸いでございます。
1-1.善意の傘のゆくえ:町長メモから
先日、初代国立市長であった田島守保氏の著述を確認していたところ、とある記述に目が留まりました [3]田島守保『町づくりと先達』(学陽書房、1971年) 268頁。。それは「雨傘のゆくえ」と題されたもので、「町長メモ 国立駅前の明暗」として1964(昭和39)年11月1日付の『広報くにたち』(国立町報)№144に掲載の記事(資料1)でした。
この記事では、1960(昭和35)年のこととして、「駅にカラ傘を備えて、おつとめ帰りに困っている方々に無条件でお貸しすることにした篤志家がありました」と紹介し、その傘が1年足らずでほぼなくなってしまったことを述べています。その後に他の篤志家からの寄附があったようですが、それも1年後には紛失。さらに、「三年目」とあるので1963(昭和38)年かとみられますが、またもや傘が寄附され、その黄色い傘200本へ、今度は「国立町」と書いて備えつけたものの、結局100本中90本が国立駅では未回収の状態に。そんな状況に「もう一度文教地区の名誉をうたわねばならないでしょうか」と田島氏は嘆いています。この記事では、どうも篤志家による傘の行方について新聞報道がなされていたような記述があります。そこでくにたち中央図書館による『国立市に関する新聞記事索引』を漁ってみたところ、幸いにも2件の記事がヒットしました[4]『国立市に関する新聞記事索引 1』(くにたち中央図書館、1984)17頁・23頁。