クラシックギタリストの松尾俊介さんに今回のコンサートプログラムについての想い、そこに至るまでの自身の活動について伺いました。
例えるなら、胸やけしないコース料理
クラシックの音楽・演奏会というと、どこかに敷居の高さがあるかと思うのですが、それを一番取り払えるのがギターであり、親しみやすい楽器。今回、超名曲とつけたのは、そもそも聴いていて楽しいと思われている曲、そう認識されることの多い曲をメインに集めました。
例えばイタリアの名曲だけだとイタリア食が続くようなもので、サラダが和食だったら次には中華の魚料理がきて、フレンチのメインがきたら、胸やけしないし、飽きない。それが出来るのってギターが一番得意としているところなのかと思います。ヨーロッパだけじゃなくて大西洋を越えて地球の南半球まで行ってしまえる、自然と世界中の音楽を入れることが出来る。そして、胸やけしないってところが両立させられる。ギター音楽の“イイトコドリ”のコンサートです。
名曲はむちゃくちゃシンプル!
「アルハンブラの思い出」はヨーロッパとアラビアンな要素が入ってきます。実は僕自身、留学から帰国後の演奏活動を始めてからのリクエストで弾き始めた曲なのですが、お客さんへの浸透度が抜群に良くてびっくりしました。名曲ってこんなにも人の心に浸透していく具合が高いものなのかな、それはなぜなのかな、と思ったら、名曲はだいたいシンプルなんですよ。下がって上がる下がって上がる、それだけ。むちゃくちゃシンプル。
西洋の音楽って音階、長短の調からできているのですが、その素材が結構そのままで、その素材にうまいソースをつけた感じのものが名曲になるのかなと思ったりします。何が起こって何がそんなにストンと入ってくるのかなと思ったら、シンプルにできている。色々な名曲を聴いてそう思いました。
素材をどんな風に彩るのかっていうのが演奏家の腕の見せ所であり、一番面白いところです。どういう風に美味しいのか、美味しさってどんなだろうって、それを追及するのが僕らの仕事で、それを口に入れて食べてもらうのがお客さまかなと思っています。
現代音楽と古楽を両端から攻めていく
留学していた最後の頃、当時僕は現代音楽に興味があったのですが「アルハンブラの思い出」も弾いたことがなくて、現代のPOPなものを弾いているのがあまりうまくなかったんですよ、あまりにも真面目すぎて(笑) 僕には古楽が合っているのであれば、古楽と現代音楽、その二つをMIXしたらいいんじゃないかってアイデアが出ました。ちょうどその時に室内楽科での相方の都合で突然帰国することになりました。図らずも帰国後の古楽を中心としたリサイタルと、CDのレコーディングが短期間に重なったこともあって、初CDが偶然古楽と現代音楽という形になりました。
その時に現代音楽と古楽が自分に合っているなと感じていたのですが、現代音楽から寄っていって近代・モダンなもの、バロックから初期の古典期のもの、だんだんとクラシックの音楽史の中心、古典の時代に向かって、内側に両端から攻めていく。それを10年ぐらいかけて色々なものを咀嚼しながら古典のほうに向いていく感じのレパートリーを演奏活動をしながら創っていけたらな、とその頃考えました。
10年間でそのレパートリーを一周できたら、60歳くらいまで演奏を続けていたとしても4ターンある。でも現実はそんなに甘くはなくて、色々なお仕事をいただくことがあって、思ったとおりにレパートリーはすすまないですし、もう少し時間はかかって古典までいくことになりました。
そういった経緯があって、色々なものを拾っていく、自分が計画していたことと違うところの枝葉にものすごく大きな実がなっていたりするので、そういったものを取りあげて、経験していくうちに出来上がったのが、今回の「アラウンド・ザ・ワールド」のプログラムです。
甘味とうま味 強めのコンサート
僕としてはこういうプログラムを組もうと思って人生を歩んできたり計画していたわけじゃない。自分が生きていくうちに、こういうこともああいうこともやる、と見つけ出して偶然出会ってきたものの中にあった、美味しい木の実みたいなものが、実はすごく美味しかった。
それを集めていったら、プログラムの骨格ができあがって、そこからもっと美味しくするためにと足して工夫したのが今回のプログラムになりました。僕が持っているなかの甘い部分、ちょっぴり大人の苦みもありつつも、甘味とうま味の強めのコンサートになるのかなと思っています。
♪♪♪ここからインターネット特別編集版だけの追加トーク♪♪♪
きっかけは押し入れ!?
ギターを始めたきっかけとしては、親からピアノができるといいよと勧められたのですが、どうやら相当頑なに僕が拒否したらしくて(笑) 本当にイヤがって拒否したらしいんです。今思えば本当にもったいない。当時バスケットボールに夢中だったのですが、家の押し入れにLPのクラシックのレコードがありまして、興味本位で聴いてみたLPレコードはジャケットが大きくて昔はスコアが載っていたりしたんですよ。ヴィバルディだったと思います。学校のリコーダーで吹く楽譜と同じものが縦に多層的に並んでいることはわかって、聴きながらスコアを見てみると一番目立つメロディを何人か交代で順番にやっていて、音楽って立体的にできているんだ!というのを知ったり、っていう子ども時代がありました。
学校の授業で聴いたチャイコフスキーやボロディンとかロシア音楽のCDとかが近くのたまたまディスカウントストアで売っていて、それを買ってきて聴いたときもびっくりしました。笛で自分が吹いてた曲がオーケストラになってるわけじゃないですか。リコーダーで小学生がみんなで頑張って吹いてるやつとプロのオーケストラが弾いてるのが同じメロディなのにこんなに違うのか!と衝撃うけました。
その頃うちの押し入れから、父がギターブームの頃に弾いていた楽器がそのまま眠っていたものが出てきて、そのケースを開けたら10年以上も張り替えられていない弦がたまたま奇跡のように切れずに残っていまして、音が出たんです。それが面白くて、あれほどピアノを嫌がった子だったのが、学校で笛を吹くのが好きだったという延長線上、親に言われた習い事とは違う自分で発見したもの!みたいな感じで夢中になりました。
わかろうとしない、楽しいか、楽しくないか、だけ
こどもたちに伝えたいことは、自分の人生計画にある、まっすぐの道以外のところに、色々なものがある。だから興味のアンテナを張りめぐらして、何か面白いなと思ったらそれが何なのかを自分の目でしっかり見てみて欲しい。その色々と面白いなと思ったとき、一歩踏み込んでみる。興味を持って踏み込んでみると、それが音楽じゃなくても、絵画でもダンスでも何でもいいと思うけれど、自分が思う以上に面白い世界が広がっている。そんなことを知るきっかけになったら、と思ってアクティビティのプログラムを組むようにしてます。
僕が生まれた京都では自転車で行ける近い範囲内にコンサートホールが2つあって、面白そうだなと思ったら何も考えずにTシャツとGパン、ビーチサンダルでもコンサートに行ってました。何か面白そうだなと思ったら行ってみる! こどもの頃って“わかろう”としないので「楽しい」か「楽しくないか」だけじゃないですか? おとなになればなるほど、“わかろう”としてわからないっていうのが出てくるんですよ。でもわかるかわからないかなんて専門家の領域なので、勉強しないとわかるわけないし、僕自身がプロ・専門家として勉強してもまだ新しい発見やわからないことも正直あるんですよ。だから、それが面白いかどうかって、もっともっと人間の原始的な部分で、見てみたら面白い、聞いてみたら面白い、それだけでいいと思っています。お客さんにハードルの高いものを求めてなくて、楽しんでもらえたらいいってコンセプトが「アラウンド・ザ・ワールド」なんです。
食べ物の好き嫌いと同じ
僕自身も演奏会で1曲2曲楽しい曲を聴ければ良かったなと思って帰りますし、最初から最後まで全部が楽しかった、全部が面白かったというよりは、食べ物に好き嫌いがあるように、とんかつが好きな子がいればカレーが好きな子もいて、でも焼き魚はあんまり好きじゃないとかあっていいと思う。そういうバラエティ豊富なものだったとして、その中から美味しいものを見つけたら、もう一回自分で聴いてみる。それが楽しかったらまた聴いてみる。そのサイクルだと思うですよ。興味のサイクル。クラシック音楽の特徴は同じメニューやレシピを違った料理人が料理することにあるんですね。アクティビティやコンサートが、そのきっかけ、欲張れば好循環のサイクルになればすごく嬉しい。○○屋さんのカレーは甘いけど、〇〇屋さんのカレーは辛くて好みというように、好きな演奏家を見つけるのもその後の楽しみの一つなんです。それが僕だったら最高ですし、それを目指してますが(笑)
ギター超名曲Around the World
松尾俊介クラシックギターコンサート
バッハのドイツに代表されるヨーロッパの国々から、大西洋を渡ってキューバ・ブラジル・アルゼンチンなど、ラテン・アメリカまで。クラシックギターの奏でる名曲とともに世界一周をしませんか。
日程 | 7月9日(土) |
時間 | 15:00(開場14:30) |
会場 | ホール 全席自由 |
料金 | 一般1,500円 中学生以下500円 |
出演者 | 松尾俊介(クラシックギター) |
曲目 | A.ルビーラ作N.イエペス編/映画「禁じられた遊び」のテーマ F.タレガ/アルハンブラの思い出 ほか |
コンサートについて詳細はこちらの記事をご覧ください。