郷土文化館の武蔵野庭園の片隅で、幾株かのスイセンの花を見ながら、民俗学者の宮本常一氏の故郷、山口県の周防大島で、毎年1月30日に営まれる「水仙忌」のことが過りました。島のいたるところにみられるスイセンの花に因むこの日は、氏の命日にあたります。
ノンフィクション作家の佐野眞一氏は、「宮本常一は、ふつう民俗学者として紹介されている。しかし、宮本が日本列島の上に印したおびただしい業績を展望すれば、そんな狭苦しいくくりだけでは到底おさまりきれない男だったということがすぐにわかる。」と紹介しています。確かに、氏の膨大な著作集に接すると、“忘れられた”人びとの発掘に、ほとんど半生を捧げているようすを窺うことができます。そこには、今日の自然と人のありようも考えさせられるような指摘もあります。

『日本人は自然を愛し、自然を大事にしたというけれど、それは日本でも上流社会に属する一部の、自然に対して責任を持たぬ人たちの甘えではなかったかと思う。自然の中に生きた者は自然と格闘しつつ第二次的自然を作り上げていった』(『自然と日本人』)

 庭園のわずかなスイセンから、宮本常一氏のことが偲ばれた午後でした。