2021年の3月も終わる頃。1人の学生が、当館を訪れてくれました。
早稲田大学創造理工学研究科 建築学専攻 修士3年生(当時)の山本圭太さん。
お話を聞くと、大学院で建築デザインを専攻しており、国立が地元であることから、修士研究で、国立市域を横断する立川崖線(ハケ)沿いの道を舞台に、恒久的な公共空間を形成する建築のデザインについて研究をされたそう。その調査のために、当館の資料研究室に通い続け、対応した当館学芸員に「大変お世話になりました」と、御礼を伝えに来館してくれたのです。研究成果である大きなポートフォリオも持参し、建築には全くの素人である私に、丁寧にその内容を説明してくれました。
研究の舞台となったのは、谷保天満宮から東へ延び、日野バイパスに突き当たるまでの、約700mのハケ沿いの道です。この一帯は、住宅地の中に、1992年の生産緑地法改正により指定された「生産緑地」が点在しています。生産緑地は、30年間の維持が義務付けられていますが、その満了時期を迎える地区が多く「2022年問題」として懸念されています。
山本さんが提案するのは、ハケ沿いに点在する生産緑地を結ぶように、地域コミュニティの場となるような建物を配置することで、人の流れを創出。地元住民や、そこを訪れた人々が行きかい、集い、ハケ沿いの自然を享受することで、今ある環境を保存していくという視点です。保存するために隔離してしまうのではなく、その存在を周知し、多くの人々を巻き込んでゆく。これは、地域の文化財を保存し、後世へ継承していく上でも必要とされる観点ではないでしょうか。その事を日々の業務から感じている私は、山本さんの語る“保存のための開発”に共鳴したのでした。
本研究にあたり計画模型を制作し、3月初めには代官山で展示も行われたそうですが、コロナ禍ということもあり、国立の方に向けての発信が出来なかったことを残念そうに語っておられ、(どれほどの国立市民の皆さんに届けられるかは分かりませんが…)、「くにぶんぶろぐ」にて紹介させていただきます。
山本さんの研究成果はこちらからご覧になれます。
流動する大地~700Mのハケの道における新たな公共の提案~(PDF)